腎移植

腎移植の流れ
レシピエント(腎臓の提供を受ける方)

腎移植後の合併症

全身麻酔に伴う合併症

手術は全身麻酔で行います。全身麻酔では口から気管に管を挿入し、人工呼吸器で管理されます。管を挿入する際に歯を含めた口腔内の損傷や声帯を損傷する危険性があります。また、麻酔や手術中の管理のために、腕と頚部(首)から点滴のための管を入れます。手術後使用する薬剤が皮下に漏れたりすることのないよう太い血管を使用して管を入れます。点滴の管を挿入する際に血管を傷つけて出血を起こしたり、胸に空気がたまるなどの危険性も、まれですが起こる可能性があります。

腎移植術に伴う合併症

概ね重篤な合併症が起こることはありませんが、完全には否定できません。起こりうることを列挙いたします。

出血

手術中、あるいは手術後の出血のために、輸血が必要な場合があります。

創部の離開(傷が開くこと)

傷の部分(創部)は、ステープラーや糸を用いて縫合します。創部に感染がおこれば、その部分の傷が開くことがあります。また傷が治るまでにお腹の中の脂肪部分が溶けて汁(浸出液)が出てくることがあり、傷が治りにくいことがあります。感染が生じた場合、ひどくなればお腹の中の方まで感染し、高熱が出るなどの症状を起こすこともありますが、抗生物質などで治療をおこないます。特に、糖尿病などの合併症のある方は、傷が治りにくいことがあります。

感染

肺炎など、他臓器の感染を起こすことがあります。抗生物質などの点滴を必要とする場合があります。

疼痛

創部の痛みに対して、術直後は点滴や注射を使用します。

尿管狭窄・尿瘻

尿の流れが悪くなったり、尿が尿路外に漏れたりすることがあります。ステント(細い管)を尿管に留置したり、再手術をして修復する場合もあります。

腎動脈狭窄・腎動脈血栓症

腎動脈と腸骨動脈の吻合部(血管どうしを縫い合わせたところ)が狭くなることがあります。またそれにより腎臓への血流が不十分になり、腎静脈に血栓が生じることもあります。動脈の血液が腎臓に運ばれないと移植腎の機能低下につながり、早急な処置が必要となります。

リンパ瘻

腎臓の血管周囲のリンパ管を手術時に切断することにより、移植腎周囲にリンパ液がたまることがあります。そのため、移植直後はドレーン(お腹から出ているチューブ)を挿入し、数日の間量や性状を観察しますが、自然に軽快しない場合は、処置が必要なこともあります。

神経麻痺

移植のために下腹部を切開することにより、大腿や外陰部の知覚が手術後に鈍くなることがあります。知覚の改善は人によって異なりますが、極めて稀に一生続く場合もあります。

術後の肺梗塞

おもに足の血管の中で血液が固まり、これが血管の中を流れて肺の血管を閉塞する重大な合併症です。この合併症を予防するために、手術中には下肢に弾力性のある靴下をはきますが、医師の許可があれば術後も出来るだけ早く歩行していただくことが大切です。

その他

まれではありますが、手術のストレスにより、脳血管や心血管に負担がかかり、脳卒中や心筋梗塞など他臓器の合併症が生じる可能性があります。

腎移植や免疫抑制療法に伴う合併症

急性拒絶反応

移植後早期が最も危険性が高い時期です。尿量や採血結果などにより拒絶反応が疑われた場合、移植腎針生検が必要な場合があります。適切な免疫抑制薬の治療により、大抵の拒絶反応は改善し、腎機能も正常に戻ります。

感染症

免疫抑制薬使用のために抵抗力が落ちており、種々の病原微生物(細菌や真菌、ウイルス)による感染症が生じることがあります。定期的な観察を行って早期に診断し、治療することが重要です。生命に危険が及ぶ重大な場合もまれにあります。

消化性潰瘍

手術を受けることは、体に大きなストレスを与えることになります。また免疫抑制薬の副作用のために、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍が出来ることがあります。そのため移植後は抗潰瘍薬を併用して、消化性潰瘍を予防します。

移植腎機能未発現(プライマリーノンファンクション)

特に献腎移植の場合、移植した腎臓が尿を作らない場合があります。移植腎針生検などで腎臓の状態を確認し、腎臓が機能していない状態のままの場合には、やむなく移植腎を摘出する場合がまれにあります。

慢性移植腎症

免疫学的要素(拒絶反応)、非免疫学的要素(免疫抑制薬の腎障害、再発性腎炎、メタボリックシンドロームなど種々の要因)により、徐々に移植腎機能障害が進行する場合があります。移植腎針生検を行い、それぞれの要因に応じた治療を行います。

高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症

これらは免疫抑制薬の副作用などのために生じることがあります。免疫抑制薬が移植後に減量されると、これらの副作用も軽減していくことが多いです。しかし、免疫抑制薬を内服している間は、常に高血圧や糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症を予防するため、透析時よりも制限は緩やかではありますが、食事制限などの自己管理をする必要があります。また、もともとこれらの合併症があるまたは予備軍である方は、免疫抑制薬を飲み始めることにより悪化する場合があります。

悪性腫瘍

免疫抑制状態にあるため、悪性腫瘍にかかるリスクが健常者に比べるとやや高くなります。特に移植後の喫煙は肺癌や食道癌になるリスクが高くなることがわかっており、移植後は禁煙が必要です。また、腎癌や移植後リンパ球増殖症(PTLD)など、特定の悪性腫瘍の発症率が高くなるため、移植後継続した定期的な検診が必要となります。

下腹部を圧迫する危険性

下腹部に腎臓が移植されるため、その部分を強く圧迫すると直接移植された腎臓にダメージを与えることになります。そのため、移植後は下腹部を強く圧迫する行為は避けるようにしてください。

感染症

移植後は、免疫抑制薬を服用するために、感染症にかかりやすくなります。
感染症のうち問題となるのは、サイトメガロウイルス感染、真菌感染などです。そのため、予防的に抗ウイルス剤などを投与して感染症を防ぐ場合もあります。移植後3ヶ月以内に発症するサイトメガロウイルス(CMV)感染症の発症頻度が最も高く、早期の確定診断や抗ウイルス剤投与の治療が必要です。肺炎など重篤な感染症を合併すると、免疫抑制薬を中止しなければならない場合もあります。その場合、移植臓器が拒絶反応を起こしても治療することが出来ないことになります。

その他の感染症は下記の表に示したように、その原因によって発生頻度が高い時期は異なります。

河原崎秀雄他 編:「生体肝移植マニュアル」,中外医学社,p117,1993(一部改変)
富野康日己他 編:「腎不全治療マニュアル」,南江堂,p187,2004(参考)

上記以外にも、移植後免疫抑制薬の内服量が多い時期は、刺身などの生ものは避けなければいけません。その他、日常生活上、注意しなければならないことがあります。それらの詳細は移植後に説明されます。

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